日生ノ木日

私の全て。これは私がこの世に存在した証。

一年

私が、ずっと避けてたこと。

あの過去と向き合うこと。

 

あなたは、人を傷つけたことがありますか?

私は、人を傷つけて、その瞬間を見てしまったことがあります。

きっと、一生忘れないと思う。苦しそうで痛ましいその表情は、今もこびりついて離れない。傷つけたのは自分なのに、脳裏に焼き付いたその場面は、未だに私を苦しめる。私は解放されない。報いだと思う。自業自得だと思う。これは呪いなんだろう。

 

井手さんをデートに誘った時、私はもう戻れないと思った。ちゃんと言わなきゃいけないと思った。だから、いつも隣にいてくれた、本当に大切だったあの人に、好きな人ができた、と伝えた。ほんの少しのズレから始まった恋だった気がする。会える時間や不満を伝える機会がどんどん減って、いつしか私は普通に憧れてた。そこに居たのが、井手さんだっただけなんだ。

でも、それを伝えた時、私は人が傷つく瞬間を見た。人間は傷ついた時、こんな表情をするのかと、充分に理解できるくらい、残酷だった。

いっそ、怒って欲しかった。なんでそんなことになるんだ、自分はこんなに愛してるのに、って怒鳴って欲しかった。でも現実では、ついにその時が来てしまったか、というような諦め半分の絶望が顔に浮かんでた。それを見た瞬間、終わりだと思った。

私は、その日から、井手さんのことだけを想うようにした。振り返ったらいけないと思ったから。後悔なんて、したくなかったから。いつだって自分が正しいと思い込むようにした。私は、悪くない。間違ってない。井手さんが好き。何度も何度も言い聞かせた。

大切なものを失っても良い、と思えるくらい井手さんのことが好きだったのは、唯一残った紛れもない事実だった。だから、それにしがみついて、執着した。だって、そうでもしないと、耐えられなかったから。あの時の表情から、夜の孤独から、逃げられなかったから。

井手さんの返信が遅く、か細くなっていくほど、不安と後悔が募った。月日が経てば経つほど、これが本当に正解だったのか、疑問に思うようになった。私はもしかしたら大きな間違いを犯してしまったのかもしれない、という考えは日に日に膨らんだ。それでも見ないふりをして、懸命に井手さんを想った。恋に没頭して、現実逃避をした。

結果なんて、最初から知っていた。こんなふうに人のことを自分勝手に傷つけておいて、恵まれるのは有り得ないから。私みたいな人間は夢を見てはいけない。そう思って、期待なんかとっくに殺したはずなのに、ちっぽけなそれは、ちらちらと胸の奥に潜んで、何度も私を舞い上がらせた。

だから、そんな自分と現実、全てにキッパリ決着をつけたかった。私は思いっきり振られたかった。前に進みたいと思った。

 

私の声は、寂しくこだました。

静かな部屋で、届かぬ涙だけが響いた。

何も、伝わらなかった。

その時にようやくわかった。

 

私は、間違えた。

 

 

今、私は、後悔はしてない。小さな綻びはいつか絶対に解れるし、井手さんのことをあの時点で諦めきることだってできなかったと思う。だから別れの選択は、あの時の最善だった。

でも、その結果が、これ。夢を見て、他人に期待をし、大切な人を裏切った私の末路。代償は大きかったよね。

 

井手さんは、ずるいなぁと思う。結局嫌いにはなれなかった。優しいふりして、全然優しくなかったのに。私にとって井手さんの優しさは、全部甘いトゲだった。毎回期待させられて、絶望して、中途半端な状態で振り回されて。彼は、傷つけてる実感なんかないと思うけど。というか、きっと何も考えてないんだろう。だから、ずるい。

 

私がこの一年で学んだのは、自分以外に期待をしたり、夢を見ちゃだめなんだってこと。自分の幸せは、他人に期待して、他人を基準に掴むものじゃなくて、自分に期待して、自分を基準に掴むものだ。努力は関係ない。自分を認めることさえできれば、幸せなんて、きっと簡単に手に入る。だから、恋だの彼氏だの言う前に、私に今一番必要なのは、自分を信じることだと思う。自分が完成してから、余裕があったら恋をすればいい。それまでは、もうしばらくおなかいっぱい。こんな思いはもう、経験したくないし。呪いもまだ解けないから。

 

私は、幸せになりたい。