日生ノ木日

私の全て。これは私がこの世に存在した証。

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「光のエール?」

なんだそれ、胡散臭っ。友達が送ってきた画像を見て、第一に浮かんだのはそんな感想だった。画像にあった張り紙によると、プロジェクターか何かで、街のどこかに一点の光を灯すイベントらしい。なんだか、面白くなさそう。機械が映す人工的な光なんか見て、何が楽しいんだか。でも、気になる。どんな光なんだろう。どこにあるんだろう。みんな見に来るのかな。何より、最後の方の文に惹かれてしまった。光のエールか。うーん、悪くない。

どっちにしろ、友達が見たいと言うんだから、断る選択肢はない。ついて行こう。

 

まだ少し肌寒い初春の夜、私は彼女と待ち合わせた。自転車を押しながら、空に昇る光を探す。

「あれじゃない?」

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友達がビルの隙間から見える、ぼんやりした光の筋を指さす。ここからだと少し遠くて、うっすらしか見えない。やっぱり所詮こんなもの?でも、もっと見たい。近くに行って、光が空まで真っ直ぐ昇っている様を見たい。その一心で、気が付けば駆け出していた。

「あっちの方だよ!」

息を切らして、走る。道行く人が見ていようが関係ない。むしろ、その視線さえ心地よいくらい。私達の周りだけが、映画のワンシーンのように輝いていた。

どんどん光が近づいていく。青白くて、透き通るような一本の筋。次第にそれは太くなり、光の塔のように空に聳え立つ。

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「着いたね」

ついに、光の下に辿り着いた。私達は、息を切らして笑い合った。花火やイルミネーションのように、とりわけ華やかで綺麗なわけじゃない。けれど、それは特別だった。多分それは、だれかと一緒に夢中で探した光だったから。

あの光は、辿り着いて直ぐ、ほとんど一瞬で消えてしまった。最初から無かったみたいに。

 

あれから5年経った今でも、私はあの光を思い出す。あの頃、隣で一緒に光を探した彼女はもういない。もしかして、私が見たのは幻想だったのだろうか。楽しかったあの思い出も、まぼろしだったのだろうか。

一つだけわかるのは、私達はいつだって光を探しているということ。希望の花火だとか、太陽のような人だとか、私達は光が好きなのだ。そして、心のどこかでずっとそれを探し求めてる。あの日から、それだけは変わっていない。時代が変わろうが、関係が変わろうが、私達はこれからも光を探し続けるのだ。